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東京地方裁判所 昭和42年(特わ)323号 判決

本店所在地

東京都台東区根岸三丁目一三番八号

株式会社 東京義髪整形

右代表者代表取締役

中山秋蔵

本籍

東京都台東区根岸三丁目一三番八号

住居

同都北区田端町四九八番地

会社役員

修造こと中山秋蔵

明治四一年一二月一六日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官上田政夫・弁護人寺坂吉郎出席の上審理して、次のとおり判決する。

主文

被告会社を罰金六〇〇万円に

被告人中山を懲役六月に

各処する。

被告人中山に対しこの裁判確定の日から二年間右刑

の執行を猶予する。

訴訟費用は被告会社及び被告人中山の連帯負担とす

る。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社は、東京都台東区根岸三丁目一三番八号に本店を置き、形成外科及び美容整形に附随する毛髪疾患に対する義髪及び義皮膚の製造及び装着行為、輸出、国内販売等を営業目的とする資本金一〇〇〇万円(昭和三九年九月二三日までは資本金四〇〇万円)の株式会社であり、被告人中山秋蔵は右被告会社の代表取締役としてその業務全般を統轄していたものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部除外、架空仕入、架空借入金、架空賞与の計上、期末棚卸の一部除外等を行う方法により所得を秘匿したうえ

第一、昭和三八年七月一日より同三九年六月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が四九、一四四、八八九円であり、これに対する法人税額が一八、一三四、三八〇円であるのにかかわらず、昭和三九年八月三一日同都台東区北稲荷町六二番地所在の所轄下谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額は、四、七九九、九四〇円であり、これに対する法人税額は一、四三六、二七〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額と申告税額との差額一六、六九八、一一〇円を免れ

第二、昭和三九年七月一日より同四〇年六月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額が、五四、三一六、九八三円であり、これに対する法人税額が一九、七一一、二四〇円であるのにかかわらず、昭和四〇年八月三一日前同所所在の所轄下谷税務署において、同税務署長に対し、所得金額は三六、四〇二、一五一円であり、これに対する法人税額は一三、〇八三、七四〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて被告会社の右事業年度の正規の法人税額と申告税額との差額六、六二七、五〇〇円を免れ

たものである。(逋脱所得の確定内容は、別紙一、二の修正貸借対照表の、税額計算は同三の税額計算書の各記載のとおりである)

(証拠の標目)

略語例

(公)=当公判廷における供述

(検)=検察官に対する供述調書

(大)=大蔵事務官に対する質問てん末書

(上)=上申書

一、被告人の(公)

一、被告人の(上)((上)には被告会社名義のものも含む)二一通、(大)一〇、(検)五通

一、証人新宅幸雄の(公)

一、証人佐藤昇治の(公)

一、証人本山和博の(公)

一、当裁判所の検証調書

一、被告会社に関する登記簿謄本

一、新宅幸雄の(大)

一、宝利恵美子の(大)

一、中山綾子の(大)

一、中山泰輔の(大)

一、中島荘吉の(上)及び(大)二通

一、佐藤昇治の(大)二通及び(検)

一、小野寺良雄の(検)

一、川地喜久雄の(検)

一、藤村年彦の(検)

一、庄山清彦の(上)二通

一、巌渕正一の(上)及び(大)

一、栗原晴一の(上)

一、斉藤良三の(上)

一、伊藤富康の(上)

一、酒井素の(上)

一、笠島善久の(上)

一、鍵山清太郎の(上)

一、山野治一の(上)二通

一、勢良宇三郎の(上)及び(大)

一、根本忠雄の(上)

一、米沢春義の(上)及び(大)

一、竹内幹夫の(大)二通

一、笹原武の(上)

一、中村成一の(大)二通

一、櫻田幸三郎の(上)

一、木村訓夫の(上)

一、高橋延一の(大)

一、鷺谷祐三の(上)

一、島崎良雄の(上)

一、関口光雄の(上)及び(大)

一、木下としの(上)

一、後藤仙堂の(上)

一、国竹三郎の(上)

一、仮名普通預金入出金明細(大蔵事務官作成以下同様)

一、貸付信託(簿外分)売買明細

一、売上脱漏等の預金貸付信託への入金明細

一、銀行調査書

一、各期末貸付信託在高内訳表

一、四〇年六月期の仮名預金期中の受入の明細

一、新喜商事に対する簿外取引の明細

一、勢良商店荷受及代金決済の突合

一、右明細書

一、被告会社からの人毛荷受明細書

一、各期法人事業税納付状況

一、三九年六月期末償却資産公表勘定科目組替内訳表

一、四〇年六月期末償却資産公表勘定科目組替内訳表

一、四〇年六月期償却資産公表受入組替内訳表

一、四〇年六月の公表社長借入金是否認の内訳表

一、三八年六月期法人税額計算書

一、被告会社の青色申告書提出承認取消に関する証明書

一、押収してある以下の証拠物件(いずれも当庁昭和四二年押第一、五九九号、頭の数字はその符号番号及び枝番)

1  法人確定申告書

2  法人税確定申告書

3  法人税確定申告書

4  元帳(三九・六期)一綴

5  元帳(四〇・六期)一綴

6  元帳(三八・六期)一綴

8の1~4 売掛帳四冊

9  金銭出納帳一冊

10  源泉徴収簿等綴一綴

11の1~7 営業費等支払証憑書類綴七綴

12  現金仕入帳一綴

14  給与関係綴一綴

15  給与計算書等一袋

16  たな卸表原票一綴

18  買掛帳三綴

19の1~20棚卸表二〇綴

20  預り金メモ一袋

23  棚卸関係表一綴

24  支店分入出金B勘定メモ一袋

25  金銭出納帳一冊

35の1~3 仕切複写簿三冊

36 領収証発行控一冊

54の1~4 総勘定元帳四綴

55の1~3 仕入帳三綴

58 元帳一綴

59 棚卸表一葉

60 棚卸表一綴

61の1~10 原毛整毛受入明細表一〇綴

62 材料受払表一綴

63 本社原価計算資料綴一綴

64 40・12・31現在在庫明細表一綴

65 40・12・31現在在庫明細表一綴

66の1~9 在庫明細表九綴

67 原毛本社発送明細綴一綴

68 在庫調査メモ一綴

(第二年度商品簿外在庫金額〈別紙二13商品勘定〉について)

一、実際在庫金額の確定について

検察官の主張金額と当裁判所の認定金額は次のとおりである。

検察官主張 円 当裁判所の認定 円

(1)  実際在庫金額 34,676,130 32,625,165

(2)  公表受入 20,823,948 20,823,948

(3)  公表受入未済 2,803,897 2,803,897

当期増減((1)―(2)―(3)) 11,048,285 8,997,320

右実際在庫金額の明細は別紙四の在庫高明細表記載のとおりである。実際在庫金額は、次の方法により確定した。

(イ) 各在庫品につき、最終仕入法によるべく、最終仕入価格の判明するものは、その価格をもつて評価基準として公表分を修正した。

(ロ) 当期中仕入がなく、又は自己の製造等により取得したたな卸資産については、その単価については、公表記載分をもつて正当なものとして算定した。被告会社の当該公表記載価格は、相当時価によるとはいうものの、合理的な裏付けはなく、結局は、被告人の経験とカンによつてつけられたもの(被告人の公判供述)というのであつて、その限りにおいて妥当なものではないが、被告会社のたな卸資産の取得価額、評価方法等につき税法上これを適正に認定し得る資料がない。被告会社は、上申書(42・1・21付)により、公表単価を一部修正し、検察官はこれをもつて認定の資料とすべきであるとするが、被告人及び証人本山和博、新宅幸雄の各公判供述によれば、右上申書は査察官から修正するよう示唆されて提出に及んだこと、及びその修正の金額が公表額以上により合理的であるという根拠があるとは認められないのであるから、右上申書をもつて公表単価を修正する資料となすべきではない。

(ハ) 簿外在庫分で公表単価のないものについては、(右上申書による以外に認定資料はなく、右上申書もその作成は任意になされたものである。)上申書記載単価を採用した。但し、沼田工場マシン原料の簿外在庫、金額分については、前述した理由により公表単価をもつて算出した。

二、昭和四〇年六月期末沼田工場マシン原料の実際在庫数量について被告人及び弁護人は、「昭和四〇年六月期末における沼田工場のマシン仕掛品―原材料―は、公表(一六二・八五kg)が正当であり、検察官主張の八二三・五kgは、色違いや余り毛などの死蔵品ないし実際上使用不能品を含めた数量である。」旨主張するので以下に検討する。

被告会社は、輸出用かつらの生産にあたり、本社及び志茂工場で染色、脱水した人毛を沼田工場に送り、同工場ではこれを乾燥させ、プリペアリング・ギアーにかけて解毛し、マンガにかけて縦の片方に毛をそろえ(片引き)、ミシンに縫合するマシン工程等を経てかつらのセット仕上げを行い、これを本社に発送していた。沼田工場では、各月ごとに実地たな卸をしており、本社からの染色毛でマシン工程にかけられるマシン原材料については、色別の各ナンバー毎に秤量し、これをたな卸表に記載し、集計していたのであつて、その明細及び合計は、別紙五のとおりである。

ところで、被告人は沼田工場の佐藤昇治工場長にマシン原料の毎月の実地たな卸数量を半減して報告するよう指示していたが、昭和四〇年六月期末はとくに指示し、さらにそれを半分、すなわち実地たな卸数量の四分の一に減じた量を実地たな卸高として本社に報告するよう命じた。佐藤工場長は、その指示に従い、カラーナンバー毎になされた実際のたな卸高合計八二三・五kgをまずその半分以下に減ずるため、減量し(別紙五の減量欄分数量)、これを一律に半減した数量合計一六二・八五kg、(別紙五の公表欄数量)を本社に報告し、本社ではこれを実地たな卸高として確定決算に組み入れ、申告に及んでいる。

被告人は、右数量除外が単なる利益操作のためばかりでなく、マシン原材料にはいわゆる余り毛、色違い毛などの死蔵品が入つているのでこれらをたな卸計算から外さなければならないことに由来する(被告人の四一・六・一七付、四二・二・八付(大)四二・七・一八付(検)、公判供述)というのであるが、なるほど、前掲証拠によれば、マシン用原材料には、マシン工程において、各個のかつら生産の用に供した残りの余り毛、オーダーに合わない染色毛や不良染色毛などのいわゆる色違い毛が生ずることがあり、これらは、海外からのかつら注丈生産を主とする被告会社にとつては、通常の方法によつては、製品の用に供することができず、他に転用の方法がないとすれば、死蔵品と化するおそれが生ずることが認められる。

しかしながら、被告人及び弁護人の主張は、以下に述べる理由によつて認容し得ないものである。

(イ)  公表数量の除外分には根拠がない。公表たな卸高は、被告人の指示によつたとはいえ、その指示は個々のカラーナンバー毎に減ずるように具体的になされたのではなく、実際たな卸高を四分の一位にせよとの大まかなものであつたし、その四分の一なる指示の合理的根拠はない。しかも佐藤工場長は、この指示により、実物を検討することなくペン先一つでカラーナンバー毎に適当に数量を減じたのであつて、その減量には根拠がなく、減量合計分も四分の一以下になつているのであり、さらに、個々のカラーナンバー毎にその減量分を不良品とみたとするならば全く不合理な結果をみることになるのである。(例えば、別紙五のカラーナンバー12、20、27は、8月末のたな卸で数量0すなわち全部生産の用に供されたことが推認されるのであつて、少くともこの分の死蔵品はなかつたというべきである。)

(ロ)  公表の経理は不正、不当である。実地たな卸数量には、くず毛や落ち毛などの作業屑ないし無価値物が入つていないことも争いがない。もしそのいうところの余り毛、色違い毛が含まれ、これを死蔵品として処理すべき原材料があり、これを評価減の対象としようとするならば、たな卸資産の評価減は原則として許されず、その甚しい陳腐化等法定の列挙事由があり、これを損金経理して帳簿価額を減額することにより、評価損の計上が許容されるのであるから(改正後の法人税法三三条二項)、同法にいうたな卸資産の著しい陳腐化ないしこれに準ずる特別の事実が発生したもの(同法施行令六八条一号)として資産の評価損を計上しなければならないのである。しかるに被告会社は損金経理をとることなく、数量除外という方法をとり、しかもその除外分はとうてい正しい死蔵品の数量を表わすものでないことは前示の説明のとおりであるから、公表たな卸高は評価損経理の形式及び内容の面からみても認容し得るものではない。

(ハ)  死蔵品の実際数量を推計によつて算出することも不可能である。余り毛、色違い毛はそれ自体客観的に明白であつたとは認められず、在庫の状態としても、記帳上においても区分された事実はない。さらにこれが“使えないもの”であるという判定は一に被告人の経験とカンによる他なかつたというのであるし、その被告人が、具体的にこれを区分しない以上把握すべき客体の範囲がそもそもあいまいとならざるを得ない。そして沼田工場の毎月の実地たな卸高、月中受入高によるマシン用原材料の増減からは、直ちに死蔵品量を把握し得ないし、沼田工場と本社との間のかつら出荷個数と沼田工場の月中受入高、かつら一個当りの所要人毛量により死蔵品を推計しようとしても、個々のかつらの完成に要する期間、かつら一個の平均重量を正当に把握しない以上、不確定な数値に基づくところの、推計せんがための推計に終つてしまう結果となるのである。

以上のとおりでこの点に関する弁護人の主張は採用しない。

(法令の適用)

一、第一の事実につき昭和四〇年法律第三四号附則一九条によりその改正前の法人税法四八条、被告会社につきさらに同法五一条一項。

一、第二の事実につき法人税法一五九条、被告会社につきさらに同法一六四条一項。

一、被告人中山につき各懲役刑選択。

一、併合罪加重の点は、被告会社につき刑法四五条前段、四八条二項、被告人中山につき同法四五条前段、四七条本文、一〇条。

一、刑の執行猶予につき刑法二五条一項。

一、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小島建彦)

別紙一 修正貸借対照表

株式会社 東京義髪整形

昭和39年6月30日

〈省略〉

〈省略〉

別紙二 修正貸借対照表

株式会社 東京義髪整形

昭和40年6月30日

〈省略〉

〈省略〉

別紙三 税額計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙四 在庫高明細表

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙五

〈省略〉

〈省略〉

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